改めて気を引き締めました。

これは5年前、私が祖母の葬儀に出席した時の話です。
祖母は以前より体調を崩しており、三年近く闘病の末に旅立ちました。

享年は88歳でしたので、平均的な年齢までは生きられたと思います。
それ以上に、病気の苦痛から祖母が解放され、また家族も看病をしなくても良くなったという安堵の方が大きかったかもしれません。
葬儀は祖母を偲びながらも、穏やかに進められていきました。

こうして親戚が20名ほど集まり、いよいよ火葬をされて納骨をするという時の話です。
私たちは別室で、火葬が終わる時間まで待っていました。
その間も、祖母の病気のこと、私たち家族がいかに祖母を支えてくれたのかを親戚一同で褒めてくださっていました。

そんな時です。階下にあるロビーから女性の泣き叫ぶような声が聞こえてきたのです。
私たちは一瞬その声に耳を取られましたが、火葬場なので悲しむ人がいて当然と気にしないことにしました。
しかし、10分が経過し20分が経過しても、その声は止むことはありませんでした。
それどころか一層大きくなっています。

いい加減気になった私は、母が制止するのを振り切って部屋を出て、階下の様子を伺ったのです。
すると、階下にあるロビーで喪服を着た40歳前くらいの女性が泣き叫んでいたのです。
あの声の正体はあの人なのか。そう思いながらロビーへ向かうと、その女性を慰めようと同い年くらいの女性三人が何か話しかけていました。

とその瞬間、泣き叫んでいた女性が走り出したのです。
呆気にとられながら行く先を見ていると、火葬をしている部屋でした。
そしてその部屋の一角に、小さな遺影が線香とともに飾られていました。

遺影には、やはり40歳前後とみられる男性が笑顔で写っていました。
女性はその遺影を手に取ると、胸に抱えながら「何で!何でなのよ!」と再び叫び出したのです。
その時に、「ああ、あの遺影は女性の夫なんだろうな。そしてあのうろたえ方を見ると、急に亡くなってしまったんだろうな」と思ったのです。

心の準備も出来ないまま最愛の人に旅立たれたあの女性の心境を慮ると言葉になりません。
女性の傍らには、まだ幼稚園くらいの女児がいました。恐らく夫婦の娘さんでしょう。
最も可愛い盛りに旅立たなくてはならなくなってしまった男性の気持ちを思うと、やはり言葉になりません。

私の場合は、徐々に弱っていく祖母を見送ることが出来たので心の準備はできていました。
しかし突然の別れとなってしまったら……。
あれ以来、私は常に気を引き締めて生きていこうと心に決めています。
残された側も、そして置いていかなくてはならなくなった側も無念でしょうから。